本研究室の主な関心事は、映像のテクノロジーと表現手法です。動く映像が誕生したのは19世紀後半のことです。珍奇な新発明をなんとか使いこなそうと模索する中から、徐々に新しい表現やジャンルが編み出されてきました。現在も続くそのような技術と表現の相互作用の営みについて、座学での概念的理解に加え、実制作により体感的にも理解することを試みます。
映像は一種の手品です。隠された合理的思考に基づく物理的操作により摩訶不思議を見せるものです。つまり錯覚の芸です。われわれが映像を見るとき、被写体や図像としてそれを見ていますが、技術的にはスクリーンに並んだ点の明滅や陰影です。表現においても、物語映画は一連の出来事として鑑賞されますが、実際にはバラバラの時間や場所で行われた出来事を寄せ集めてつなぎ合わせているというのが真相です。とはいえ、タネも仕掛けもあることは重々承知の上でも、それらが露わな状態では手品として成立しないのと同様に、映像の仕組みが見えている状態では映像として成立しません。スクリーン上のそれは「光る点で作られた映像」ではなく「被写体や図像」でなくてはなりません。逆説的ですが、映像として成立するためには、映像それ自体が見えてはならないということです。
映像の原理や技術について、伝統的なフィルムから最新のデジタル方式までを広く学んで頂きます。また、可能な限り多くの作品に触れ、論じ合うことで、個人的な好嫌を越えて作品を見定めることができる審美眼と分析的思考を涵養します。